〘書棚〙「社会主義都市ニューヨークの誕生」矢作弘著 学芸出版社2026年1月発行

2025年11月に行われたニューヨーク市長選挙では34歳(当時)の社会主義者でありイスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が。本書は、マムダニ氏の何が有権者の心を掴んだのかーマムダニ氏の横顔、政治家としての歩み、その掲げる政策等を読み解いていく。

 昨年11月の市長選挙でマムダニ氏の掲げた看板は、看板は「Affordable(手ごろに生活できる、まあまあな、といった意味かと思う)なニューヨーク」。家賃の凍結、無料のバスを走らせる、子供の保育料や私立大学の授業料を無償とする、その財源は荒稼ぎする大企業・富裕層に対する課税強化で確保する等を公約として掲げた。ターゲットは、中間所得階層以下の労働者、若者。これにに共鳴した10万人の若者ボランティアが160万戸の戸別訪問と電話作戦の人海戦術を展開したという。

 トランプ旋風が吹き荒れているが、アメリカの深部では、確かに「MAGA」を支持する保守的な右派の流れもあるが、他方では、2008年のリーマンショック以降、左派も力を蓄えつつあり、その中で特に若者層の中で社会主義が浸透しつつあると言われる。マムダニが掲げる政策自体は、分配論が中心であり、いわゆる社会民主主義、福祉国家路線に近いものであるが、アメリカ民主社会主義者(DSA)が大きく勢力を伸ばしつつある。日本でも、社会主義というと今でもソ連や中国流の閉鎖的独裁的な国家体制を思い浮かべる向きもあるが(この誤解こそ日本と世界の政治を混迷させる元凶の一つであると私は思っている)、そんな誤解から自由な若者たちが、強欲なアメリカ資本主義に愛想をつかし、左派に向かう流れが滔々と流れ始めている。もちろんこの流れが続くか否かは何とも言えない。トランプは、マムダニ氏に敵意をむき出しにして「マムダニは共産主義者だ」と非難を強めており、揺り戻しもあるだろうが、資本主義の総本山アメリカでも、資本主義を乗り越えた新しい社会システムを希求、探求する動きは、今後も続くだろう。

本書は、マムダニ氏の掲げる経済政策の合理性、実現可能性等についての批判も取り上げ、検討を加えている。一読をお勧めする。

本 社会主義都市ニューヨークの誕生